メタストアで就活支援:「メタバースキャリアセンター」でつくるリアルな相談空間

大学DX推進に取り組む株式会社キャリアボットは、2023年1月よりメタバース上での就職・キャリア支援を目的とした「メタバースキャリアセンター」の構築支援サービスを開始しています。株式会社ハコスコのECメタバース「メタストア」を活用し、関西学院大学にて実証実験を行っています。

本記事では、この実証実験を通じて明らかになったメタストアの強みや課題、そしてメタバースならではの価値や将来性について、株式会社キャリアボット 代表取締役 岡崎 浩二さんに伺いました。

大学DXのキャリアボットと関⻄学院大学による実証実験に協力。メタバースキャリアセンターを構築しました

株式会社キャリアボット 代表取締役 岡崎 浩二さん

 

実証実験を始めるまで

ーーーまずメタストアを最初に選んでいただいた理由からお聞かせいただいてもいいでしょうか?

岡崎:決め手は2つあります。一つは導入費用が安いということ、そしてもう一つは、初心者でも使いやすいという体験の容易さです。当初はHubsをベースに進めていくつもりだったものの、大学職員や学生さんの話を聞いてみると「使いづらい」という声が多かったんです。

それを踏まえて、本当に使いやすいシステムにしなければと思い、さまざまなサービスを見比べた結果、ブラウザで動く点や十字キーとクリック操作だけでほとんど全ての体験ができるメタストアを選びました。

ーーー管理画面での操作やスペースのカスタマイズなど、運用する上で何か困ったことなどはありませんでしたか?

岡崎:オブジェクトをバーチャル空間に自分でうまく配置できるか、最初は不安でしたが、意外とすんなりできました。特に今回は、最初からほとんど完成している空間を作っていただいたので、あとは画像をいくつか差し替えるぐらいで問題ありませんでした。

いただいたマニュアルを見ればだいたいのことは解決しましたし、分からないことは担当者さんに連絡をするとすぐに対応していただけたので、何かができなくて困るようなことはなかったです。

 

「場所」を持つことのメリット:コミュニケーションの広がり

ーーー御社のサービスにおいて、メタバースがこの先役立つ可能性はどれくらいあるとお考えですか?

岡崎:「メタバース」の本質は、バーチャル空間の中で快適にコミュニケーションを取れるという点にあると思います。空間があって、掲示物から情報を得たり、申し込みの手続きができたり、職員とコミュニケーションが取れたりする。最低限の情報発信ができることと快適にコミュニケーションが取れること、この二つの基本的なことが満たされるだけで、物理的なキャリアセンターしかない大学にとっては、大きな可能性が開けるはずです。

メタバースと聞くとすごくハードルの高い技術なのではないかと身構えてしまう人もいるかもしれませんが、まずはミニマルな機能を確実に使っていき、その後で必要なものを順次追加していけばいいと思うのです。

ーーー実際にメタストアを使ってみて「良いな」と感じた点はありましたか?

岡崎:ボイスチャットやビデオチャットを通じて、スタッフの目線や人となりが学生に伝わることと、逆に学生の様子も伝わってくるのが良かったです。それだけ聞くと「Zoomとどう違うんだ」と思われる方もいるかもしれません。

Zoomとメタストアの大きな違いは、「場所」というか、空間が持つコミュニケーションや機会の広がりという点にあると思います。Zoomは、Zoomというアプリケーションに閉じたコミュニケーションしか発生しません。例えば、Zoom会議が終わった後に部屋に残って雑談するだとか、話が盛り上がったついでに別の場所に移動する、なんてことは起きにくいですよね。

バーチャル空間では、中に入るとそこから雑談、レクリエーション、打ち合わせ、講義、観光……とさまざまな機会に繋がっていく可能性があります。空間に「遊び」があるというか、何か別の活動・コミュニケーションを巻き込んで広がっていきやすい。それは学生や利用者にとって大きなプラスなんじゃないかなと思っています。

他方で、そんなメタバースの良さを十分に味わうには、ずっとスマホだけで体験し続けるのでは厳しいものがあるなとも感じています。スマホ対応をすることでサービスを利用できる層は大きく広がる一方で、スマートフォンという小さなデバイスのユーザーをどれくらい考慮するべきなのかはいまでも悩んでいます。「PC推奨です」とは伝えてはいるものの、今の学生さんの中にはパソコンを触ったことのない人も大勢いると思いますし、スマホ対応も必要なことは否めませんし。

ーーー現在はキャリアセンターで、学生さんの就職相談の窓口としてメタストアを使われているとのことですが、今後、活用できそうな他のシチュエーションは何かありますか?

岡崎:例えば、高校生やその保護者の方向けに行う大学紹介などには絶対使えると思います。地方や海外にいる学生さんであれば、まずは一旦バーチャル空間でやり取りしてみる、というのは嬉しいと思いますし、第一志望を決めかねている学生さんに密度の濃い大学紹介ができるのも良さそうです。

 

パブリックとプライベートを使い分ける

株式会社ハコスコ 代表取締役 藤井 直敬

 

藤井:僕らがメタストアというサービスで実現したいのは、オンラインに「場所」をつくることなんです。そこにいけば誰かがいて、人と人とが出会い、つながるような「場所」。

そこで一つ伺ってみたいことがあります。いまメタストアの空間は全てパブリックなのですが、ここにプライベート性を導入したらどうかなと考えています。パスワードなのか合言葉なのかチケットなのか、とにかく何か別の情報を持っていなければ入れないような空間をつくる機能です。

空間の出入りに対してパブリックとプライベートという区切りをつくれることに、何か価値はあると思いますか?

岡崎:とても良いですね。それはぜひ欲しい機能です。カウンセラーとして働いている経験から言うと、学校でのカウンセリングにおいてプライベートな空間を用意することは重要です。この空間には自分たちしかいない、という状況に安心感を覚える学生も多いと思います。

藤井:なるほど。それでは空間の出入りに加えて、「コミュニケーション内容が伝わる相手」にもパブリックとプライベートの区切りを導入するとどうでしょうか。スペースに入っているみんなに聞こえるボイスチャット(パブリック)と、特定のメンバーだけで通話ができるZoom(プライベート)という二つのコミュニケーション手段です。

そのように整理をすると、パブリック・プライベートという観点では4種類のコミュニケーションがあることがわかります。

人の出入り
パブリック プライベート
情報の
公開範囲
パブリック (1) パブリックな空間で
パブリックな会話
(2) プライベートな空間で
パブリックな会話
プライベート (3) パブリックな空間で
プライベートな会話
(4) プライベートな空間で
プライベートな会話

それぞれのタイプに応じて、相応しいコミュニケーション内容はおそらく変わってきますよね。メタストアはこれから、4種類のコミュニケーションを自由に切り替えられるようにしていきたいんです。

岡崎:いいですね。学校では、一対多で行われる講義、グループワーク、個人的な雑談やカウンセリングなど、さまざまなテーマを持つコミュニケーションがさまざまな規模で発生しますから、いま仰ったようなモード分けができるのはとても便利で有効だと思います。

 

「そこがどんな空間であるか」を示す

ーーー関西学院大学との実証実験を行なってみていかがでしたか?

岡崎:ボイスチャット自体の使い心地はとても良かったです。聞き取りづらいことも、画像の表示が荒いということもなく。ただ、メタバースへの入り口となる特設サイトには1000件以上の閲覧がありましたが、試験期間や入試期間などと被ってしまい、期待していた人数は利用していなかった状況です。現在、時期を変えて改めて実証実験をする予定です。

岡崎:気になった点として、学生が「メタバース」という言葉を聞いて、期待したものとは若干ズレてしまっている気もしました。学生さんたちはおそらく、アバターがたくさん並んでいてお互いにコミュニケーションを取れる、という賑やかな世界を期待していたのかもしれません。

一方で今回は「中に入るとみんないる」という感じではありませんでした。メタバースサービスをローンチするにあたって、期待値のコントロールというか、ユーザーとのコミュニケーションをもっとうまくやる必要を感じました。

藤井:誰かがいると思って入ったけど、「なんだ、誰もいないじゃん」と出ていってしまう学生さんもいそうですね。

岡崎:そうですね。実際、入った瞬間に何をすればいいのか戸惑っている学生さんも見受けられました。事前に使い方を説明したり、スペースの中にも説明用の動画を設置したりはしてあったものの、まだそのメタバース空間のルールや使い方……中に入ってまず何をするか、どのように振る舞えば良いのかということをきちんと示しておく必要がありそうです。

 

「誰かがいる気配」をどう伝えるか

藤井:「そこに誰かがいる」ということを伝えるために、運用上少しコストがかかるかもしれませんが、入ってきた人に対して挨拶をするという解決策があります。誰かが入ってくると空間のオーナーさんにはチャイムが聞こえるようになっているので、ピンポンと鳴ったら「こんにちは」と声をかけてみる。

ただ、ポータルサイトを開いたつもりで来た人は、いきなり「こんにちは」と話しかけられると驚いて閉じてしまうというケースもよくあるので、オーナーとユーザー間でのコミュニケーションというか、関係性をよく考慮する必要があるのですが。

岡崎:我々も実証実験の中で、いきなり「こんにちは」と話しかけると学生さんがいなくなってしまう体験をしました。ただ、それは仰る通り、オーナーとユーザー間の信頼関係によるところが大きいはずです。

現在次の実証実験を計画しているのですが、次は学生さんに私のことを事前に知ってもらえるように、セミナーなどを開いてコミュニケーションを取っていくつもりです。メタバースの中にいるのはこんな人ですよ、というのを徐々に知ってもらいながら運用していきたいですね。

藤井:僕もWebページを開いていきなり「こんにちは」って話しかけられたら、「自分はいま、誰かに何かされている!」とびっくりして閉じてしまうと思います。

岡崎:そういう意味では、御社がつくられていたコンビニのスペースは、スペースに入った際にユーザー側にもピンポンとチャイムが聞こえるのでとても良いと思いました。見た目は通常のコンビニですし、チャイムによって「自分はどこかの『場所』に入ったのだ」ということを伝えられれば、そこで人から声をかけられることはかなり自然に受け入れられると思うんです。

 

メタストアコンビニ

 

藤井:確かに、スペースに入った時のチャイムは、オーナーとユーザーの双方に聞こえたほうがいいのかもしれませんね。チャイムが鳴った後に声をかけられたら、「相手はこのチャイムに反応したんだな」と腑に落ちますし。

岡崎:そうですね。「そこに誰かがいる」ということが伝わるといいですね。チャイムがなるだけでいいのか、人数まで分かった方がいいのか、いろいろなデザインができそうです。

藤井:メタストアでは「ラボ機能」と称してさまざまなプロトタイピングを行なっています。今後もぜひ、一緒に試行錯誤していけたらと思います。

岡崎:今後ともよろしくお願いします!