【NewsPicks対談 #5】人類猫化計画

※本記事は、NewsPicks連載「メタバースって何の略?の”次”を語る会」からの転載です。

藤井:ぼく恥ずかしながら、昨日初めて『Roblox』のアカウントを作りましたが、複雑なことをやっているし、寿司が回っているだけのサイトでも、みんなが集まって楽しそうにしているのが面白いですね。

角田:『Roblox』などは「これがメタバースだな」と思うことがあります。文化や交流、社会が生まれている感じです。空間コンピューティングにもそういう要素が入ってきそうですね。

藤井:空間コンピューティングをリアルスペースに持ってくるのはあまり意味がない気がします。交流を目的にするなら。

角田:そうですね。プロモーションビデオではそうなってますが、サプライヤーロジックがあるのかもしれません。

藤井:よくよく考えてみたら誰かの家に行くのは、その人が目的ではなく、その人が持っている漫画やゲームが目的だから。遊ぶものや消費するものがある場所があれば、どこでもいいんですよね。

角田:確かに、物理的な障壁がないので、再現する必要もないです。

藤井:友達が漫画を読んで笑ってたら「何見てんの?」って聞く、その程度のことですね。

角田:存在していることそのものが心地いいというか、繋がっている感覚ですね。Zoomでは、話すことを目的にしているけど、ただいることだけでもいいという感じです。

藤井:『Cluster』の利用で一番多いのも、深夜のファミレス的な「ただいる」ことですしね。でも、それはお金にならない。ファミレスはドリンクバーがあるから何とかなるけど。

角田:確かに、ただいるだけの空間をどうマネタイズするかは難しいですね。

藤井:結局LINEでいいじゃんに戻っちゃいますね。

角田:役割は拡大と縮小があります。スマホで済む話も多いけど、パソコンを使う人も多いですし、写ルンですを使ったり、不便さを楽しむこともあります。

藤井:まだ行ってませんが、原宿に新しくできたハラカドの特徴は、何もないけどただ座ってられる場所が多いところだと言いますね。

角田:そういう何か、ばあちゃんとおじいちゃんがいるショッピングモールみたいな話ですね。めっちゃソファーが用意されてて、すごく座ってる人がいる感じらしいですね。

藤井:そうだね、病院の待合室みたいなもんだよね。おじいちゃんおばあちゃんが集まってる。

角田:その感覚はありますね。居場所みたいなところなんですかね。ハラカドを設計するっていうのは、多分メタバースの人とかじゃないですよね。でもいろんな業界から出てくるコンテンツがどんどんそういう結論「非効率なただの居場所」というのが面白い。こうして非効率だと思われていたものが実は一番合理的なんじゃないか、という発想が出てきている中で、時代の流れとメタバース空間コンピューティングがぴったりはまってくると面白いですね。

藤井:空間コンピューティングについて最近ずっと考えてるんですけど、何が今までと違うのかなっていうと、今までは現実空間っていうのはみんなのものだったから、誰かが壁に落書きしたら、自分の現実もそのままなっちゃって。だけど空間コンピューティングは新しいレイヤーができて、それがプライベートの空間で、自分の現実空間に被さってくる。だからパブリックとプライベートが合わさる新しい体験空間になると、いろいろ広がることがあるんです。

角田:なるほど、確かにそこに空間性を持たせるっていうのは、これまでメタバースで存在しなかったわけです。そこは確かに面白いですね。みんなで見ているものが通常だったものを、その間にプライベートレイヤーができる。結構人間の思考や考え方が広がりそうな感じがします。

藤井:今までは、物理空間の暴力的な操作によって全ての人がインパクトを受けて傷ついてたんだけど、実はプライベートなレイヤーを挟むことで、見たくないものや嫌なものは消せるかもしれない。少なくとも減らすことはできる。プライベートレイヤーはテクノロジーが作ってるレイヤーだから、知らないうちに操作されてる可能性はあるけど、一方でそれは自分のものですよっていう意味で、今までの現実空間のみの生活では持てなかったものなんです。自分が積極的に操作・拡張できるプライベートなレイヤーを重畳した空間で暮らす。僕はそこから世界平和が生まれるといいなって日々思っています。

角田:それ面白いですね。ある意味で視野が広がることにも繋がりますしね。例えば小学校の頃とか、クラスルームがそのクラスが宇宙みたいなもんで、一番足の速いやつが一番いけてる男子っていう。世界規模で見たら足の速いやつなんていくらでもいるけど、その中にいるときはそれしか見えないからすべてじゃないですか。でも認識が広がっていって、なんであんなクラスで縮こまっていたんだろうって思うけど、データの世界だと物理的な制約がなくなる。ここ、どうなっちゃうんですかね。

藤井:現実の物理世界は変わらないんで。だとしたら自分のプライベートレイヤーでいかに自分を守りつつ、他人も気遣いながら生きていく。今まで物理世界はお金や資源のリソースがふんだんじゃなかったから奪い合いにならざるを得なかったけど、プライベートレイヤーはデジタルデータだから、豊かで無尽蔵にデータが出てますよね。僕はそこで豊かさが生まれるはずだと信じています。

角田:ある意味で、そこで出てくる豊かさって物欲みたいなのが完全にパラダイムシフトしていく感じですね。

藤井:優しくなれるんだよ。僕が持ってるものをあげても減らないんだもん。

角田:そうすると、どんどん人の新しい欲求が出てくるSF的な展開もあるかもしれませんね。

藤井:確かに。マクルーハンが言うところの、新しいメディアが出てきたときにどういう世界になるのか、という話ですね。僕は「私のプライベートな現実は私のものであり、誰にも侵されないものになる」って考えてる。ただ、それはデジタルがサポートする世界だから、DNPのような安心安全の保証が必要です。

角田:確かに。プライベートなレイヤーができることで、それを守ることができるのは面白いですね。DNPさんのような企業が、それをセキュリティとして提供する役割を担うわけですね。

藤井:今までの社会では、自分や他人が何かをすることでお互いを傷つけてきましたが、新しいレイヤーができることで、人はどう変わるのか。

角田:思想に余裕ができるという感じですね。隣の人が何か言っても、自分のプライベートな空間や思想のレイヤーがあることで、オリジナリティやアイデンティティを保つことができる。

藤井:そういう変化が起きたとき、猫のように満たされている状態になるかもしれません。飼い猫のようにリラックスして、他人に媚びなくてもいい。

角田:確かに、ただ存在しているだけで、好きに生きている猫のように。

藤井:人類猫化計画ですね。

角田:そうですね、それが最終的な着地点かもしれません。

藤井:犬派の人もいるかもしれませんが、基本的には猫のような存在になるということですね。

角田:技術的な話から、最終的に猫になるという結論に至るのが面白いです。

藤井:承認欲求が必要な人は犬になるかもしれませんが、猫のように個々が独立して存在する社会が理想かもしれません。

角田:私は私というレイヤーを持つことで、人々が余裕を持つことができる。

藤井:今回の話の結論は猫ですね。